【徹底解明】世界一幸せな国・ブータンが幸せである本当の理由を解説します
はじめに
世界で一番幸せな国・ブータン。このようなキャッチフレーズは、皆さんもきっと一度は耳にしたこともあるのではないでしょうか。
では一体なぜブータンというアジアの小国がこれほどまで幸せ度が高い国として言われているのでしょうか。
この記事では、ブータンが幸せと呼ばれている所以を探りつつ、人間の幸せとは一体何なのか、近年話題になっている幸福論の話題も交えて解説していきます。
目次
1.幸せな国ブータンの真実
幸せの国と呼ばれるブータンですが、一体なぜブータンはその幸福度で一躍有名になったのでしょうか。
ブータン人の幸せの秘密を探りながら、何度もブータンに足を運んだ筆者の実体験や感想を元に、ブータンの心の姿を明らかにしていきます。
1-1 どうしてブータンは幸せの国なのか
①GDPではなくGNHを重視する国
ブータンは長年鎖国政策をとっていましたが、1971年に国連に加盟して以来、国民総幸福量を基本とした国づくりで存在感を強めきています。
第3代ジグミ・ドルジ・ワンチュク国王が【発展のゴールは『国民の繁栄と幸福』である】という考えを表し、第4代ジグミ・シンゲ・ワンチュク国王が【『我々の国の方針は、国や国民の為に経的独立、繁栄、幸福を実現し国をまとめることだ』】と語ったことからも、ブータンがいかにGNHを大切にしているかが分かります。
またブータンでは国王が国民から尊敬されとても人気があります。その人気ぶりは、現ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク第5代国王が、立憲君主制への移行を発表した際、国民が反対したという逸話があるくらいです。ブータンの提唱するGNH・国民総幸福量とは、ざっくりいうならば、「経済的な豊かさではなく精神的な豊かさを重んじる」というものです。
②足ることによる幸せではなく、当たり前の生活を送れる幸せ
ブータン人に「幸せですか」と尋ねると「はい」と答える人がほとんどだと聞きます。
これは、精神的・体験的なものに重きを置いているからではないでしょうか。
国民からの尊敬と人気と注目を常に集め続けている国王という絶対的リーダーの下、「医療や教育が無償で平等に提供されている」という福祉の手厚さ、そして信仰心。これらがブータン人が自らが幸福だと感じる理由ではないでしょうか。
「1日3食食べられて、寝るところがあって、着るものがあるという安心感」、それだけで満ち足りていて幸福だと思える。
それがブータン人にとっての幸福につながっているのです。
③幸せの基準は国家ではなく個人・家庭
ブータン国家は、幸福量の増加を目指していますが、その基準は国家それ自身にあるのではなく、国家が幸福であるためには、国民それぞれの家庭が幸福であることが基本と考え、国民の幸せのために国家がまず豊かになるとは考えないのです。
1-2 GNH(国民総幸福量)とは
世界で始めて、国の発展を図る指針として、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民幸福量)を取り入れたのはブータンだといわれています。
1972年に当時の第4代国王、ジグメ・シンゲ・ワンチュク国王が提唱したもので、これをきっかけとして彼は現代ブータンを作った人物として広く知られるようになります。
彼のこうした考えは、従来からブータンに根付いている、国民一人ひとりの幸福量を最大にすることで、国家としての幸福度を最大化しようという思いが政策として具体的に現れた形になります。
【GNH調査方法】2年ごとに、聞き取り調査が実施されますが、その量は膨大で、一人当たりに掛かる面接などの時間は合計で5時間にも及びます。各調査には約1万人ほどの人々が選定され、国民総幸福量の4つの柱、9つの指標にしたがって調査が行われます。
●参考:GNHの4つの柱、9つの指標
**4つの柱 (4 Pillars)**
- 持続可能な社会経済開発 -Promotion of sustainable development-
人々の生活の安定のためには、持続可能な社会、経済を目指す。
- 環境保護 -Conservation of the natural environment-
ブータン固有の自然や、ヒマラヤの麓に脈々とはぐくまれている自然を壊さぬよう、今後の発展に努める。
- 伝統文化の振興 -Preservation and promotion of culturalvalues
発展や近代化を遂げたとしても、それは伝統文化の破壊を意味してはならない。常に古きよき伝統を重んじること。
- 優れた統治力 -Establishment of good governance-
優れた国王の統治の下、各ゾンカクにおいても優れた統治を行うことで、国全体としての幸福度増加を目指す。
**9つの指標 (9 Domains)**
- 心理的幸福 -Psychological Wellbeing -
物質的に満たされるのではなく、心・精神面が満たされ幸福を感じられるかどうか。
- 時間の使い方とバランス -Time Use and Balance-
仕事ばかりに時間を取られたり、余暇ばかりを楽しむのではなく、そのバランスが取れた暮らしを送っているかどうか。
- 文化の多様性 -Cultural Diversity and Resilience-
それぞれがお互いを尊重しあうとともに、各地域に根付く文化を大切にすることで、伝統的な文化の多様性を重んじれているかどうか。
- 地域の活力 -Community Vitality-
誰一人として孤立してしまわぬように、皆が家族のように繋がりあうとともに、集団として活気にあふれているかどうか。
- 環境の多様性 -Ecological Diversity and Resilience -
職場や住環境など、多様性にあふれるとともに、活気にあふれているかどうか。
- 良い統治 -Good Governance-
属する国家、地方自治体において、満足できる・信頼できるような良好な統治が行われているかどうか。
- 健康 -Health-
すべての基本である、健康を重んじているかどうか。
- 教育 -Education-
すべての人が平等に、教育を受けることができるとともに、更なる発展が進められているかどうか。
- 生活水準 -Living Standard-
最低限の生活水準が保たれているかどうか。
2.幸せについてブータンを手がかりに考えてみた
2-1 幸せの定義とは何なのか
●「幸せ」を広辞苑で調べてみると
実は幸せという言葉そのものは広辞苑には載っておらず、本来の書き方は「仕合せ」となるようです。この言葉の第三義に「幸せとも書く」とした上で「幸福」という説明があります。それでは幸福とはどういう意味なのでしょうか。同じく広辞苑では「心が満ち足りていること」とされています。
これはまさしくブータン人が大切にしている、「経済的な豊かさではなく、精神的な豊かさを重んじる」ということに直接通じるものではないでしょうか。
●アランの『幸福論』
世界三大幸福論としても有名なアラン『幸福論』は皆さんご存知でしょうか。
よく幸福論という言葉や話題を耳にするようになった近代では、割とメジャーになってきたアランの幸福論ですが、まずはその内容について簡単におさらいしてみましょう。
アランは幸福や不幸は自然と降ってくるものではなく、自分で作り出すものだと考えています。不幸に感じている人は得てして周囲や環境に原因を求めがちだが、実は自分からマイナスの方向にばかり考えてしまい、結果として不幸を呼び寄せてしまっていると考えるのです。また、そうした上で、幸福になるためには、自分の不幸を他人に話すようなことはしてはならないといいます。
これは、自分が他人から与えられるものは、自分が他人に施したものの裏返しであると言う考えに基づいています。ブータン人の大切にする利他の心や、周囲の人々がまるで家族のように関わりあって助け合っている環境こそ、ブータン人の幸福度の秘訣なのかもしれません。
2-2 我々日本人が幸せになるために学ぶこと
●日本人は幸せなのか?
テレビや雑誌などのメディアの影響で、ブータンが「世界一幸せな国」と表されるのはご存知の方も多いと思います。また世界的にみても、幸福度ランキングの上位を占めるのは北欧諸国が多く、日本は80位を下回ることもあります。
物資的に豊かである日本の幸福度が低いのは何故でしょうか。
理由は様々挙げられますが、その内の一つに、「戦後の物資至上主義が幸福感につながらなくなったから」という説があります。いくらお金や物に囲まれていても、精神的な充足・安息を得ることができなくなっており、幸福感を得ることが難しくなってしまったと考える説です。
現代日本の闇の部分といっても良いかもしれません。
●ブータン人から学べること
戦後わずかの間に急速に経済を回復させ、主要先進国の仲間入りを果たした日本ですが、その発展の過程の中で、大事なものを見落としてきてしまったのかもしれません。
もちろんこれまでの目覚しい発展とそれに尽力してきた人々の偉大なる功績を否定するわけでは全くありませんが、それと同時に昔は良かったとか、現代は個人主義が強まったという主張がなされるのもまた事実です。
スマートフォンの普及でいつでも誰とでもつながれる世の中になりましたが、本当の意味でお互いを家族のように思いながら、助け合い、支えあっていけるような関係は果たしてどれほどあるのでしょうか。
そういった関係の中で、お互いの心が満たされるような思いやりを持って過ごしていくことこそ、本当の意味での「幸福」を得られるかもしれません。
■COLUMN■現代ブータンの抱える問題
インターネットが解禁され急速にテクノロジーが普及したブータンでは、どこを見渡してもみんなスマートフォンを使っています。
いつでもどこでも見ているのはスマートフォンの画面。それはまるで我々日本人と同じように。現地の人々の中には、もうスマートフォンがなければ生きていけない、スマートフォンがなかった時代の生活なんて考えられないとまで口にしています。
スマートフォンで行うのは主にチャットなどSNSの利用です。特に中国発祥のアプリ「ウィチャット」は急速に普及を果たし、ほとんどのブータン人はウィチャットで交流しています。
そんな現代の様子を見て、ブータンはすっかり変わってしまったと嘆く人々がいるのもまた事実です。
そうそれはまるで、昭和の日本を懐かしむ日本人のように。テクノロジーの普及で生活が飛躍的に便利になったのは事実ですが、人との繋がり方に関しては、スマホの中だけではない大切な部分があることもまた忘れてはならないのかもしれません。
3.おわりに
多くの物資に囲まれた生活を豊かだとする現代日本と、【統率力のあるリーダー(国王)の下、衣食住が補償され、仏教の教えに真摯であること】で「自分たちは幸せだ」と胸を張って言うことのできるブータン、そこには「幸福」の定義に大きな開きがあることが見受けられます。。現代社会に疲れてしまったときに、ブータンへ足を延ばしてみたら、そこで自分なりの幸せを見つけることができるかもしれませんね。