【沖縄の音を訪ねて】久米島唯一の職人に教わる「三線」の演奏体験
うるおいに満ちた沖縄の空気に乗って流れてくる、はじくような弦楽器の音。皆さんは「三線(さんしん)」をご存知ですか? かつて琉球王国の時代に中国から伝来したという三線は、その後独自の発展を遂げ、三味線の起源になったといわれる楽器です。ティン、トン、と軽やかに鳴るその音色は、耳にするだけで沖縄気分をグッと盛り上げてくれます。
今回は、沖縄本島の西沖に浮かぶ離島、久米島で三線の演奏体験ができるという話を聞き、参加させてもらうことにしました! とはいえ、わたくし川村、三線を弾くのはおろか、触るのも初めて。こんな状態で行ってしまって、本当に大丈夫かなぁ......?
初心者でも大丈夫! いざ三線の演奏体験へ
三線の演奏体験が行われたのは、島の西部に位置する「あじまー館」。三線の演奏やお菓子作りなど、さまざまな体験を通して、島の人とふれ合える体験交流施設です。通常は10名以上での開催となりますが、今回は特別にマンツーマンでレッスンを受けさせてもらいました。
▲ドキドキしながら先生とご対面。
先生、よろしくお願いしますー!
新垣清昂(あらかきせいこう)と申します。今日はよろしくお願いします
優しそうな先生でよかった! 新垣さんは、島唯一の三線店「新垣三味線店」の店主で、普段は三線の製作や修理を手がけられているとのこと。つまりは、久米島きっての三線のプロフェッショナルなのです。
三線を弾いたことはありますか?
いえ、恥ずかしながら、触ったことすらなくて......
じゃあ、まずは弦を鳴らすところから始めましょう
基本中の基本からレッスンはスタート。三線を抱え持ち、沖縄の方言で「チミ」と呼ばれるバチ(ギターでいうところのピックにあたる演奏器具)を人差し指にはめたら、スタンバイOKです。
ところで、わたくし先ほど三線は初めてと申し上げましたが、実は学生時代にピアノとベースをたしなんでおりまして、楽譜やタブ譜はある程度読めるんです! だから今回もある程度は......
......って、何これ! 漢字ばっかりで何がなんだかわからない!
先生! わたしの知ってる楽譜じゃないんですけど!
これは工工四(くんくんしー)といって、三線の演奏には、基本的にこの楽譜が使われます
まじか
大丈夫、2時間で1曲弾けるようになってもらいますから
▲にっこりと笑う新垣先生。や、やっぱりスパルタかも......。
気を取り直して始めましょう。
「コウシーアイ、アイシーコウ」と、階名を唄いながら開放弦を弾くところからスタート。階名というと馴染みがないですが、つまりは「ドレミファソラシド」の三線版ということです。
「コウシーアイ」とは「工四合」と書き、開放弦の音を表す階名です。3本の弦は奥からそれぞれ女弦、中弦、男弦と呼ばれ、女弦の開放弦は「工」、中弦は「四」、男弦は「合」というように階名がふられています。
何はともあれ、まずは実践! '習うより慣れよ'ということで、唄いながら弾くことを繰り返します。
コウシーアイ、アイシーコウ、コウシーアイ、アイシーコウ......
(なんかの儀式みたいでおもしろいな......)
慣れたら次は人差し指。女弦から順に「五」「上」「乙」です。
ゴウジョウオツ、オツジョウゴウ、ゴウジョウオツ、オツジョウゴウ......
弦は人差し指と中指、小指の3本の指で押さえることで音程を変化させますが、指は弦をスライドさせることはなく位置固定が基本。弦を押さえる、または離す動きをするのみなので、意外と簡単です。
あいっ、なかなかいい音出すさぁ
あ、ありがとうございます!
じゃあ次は中指! 中指は六中老ね、はいっ
ロクチュウロウ、ロウチュウロク、ロクチュウロウ、ロウチュウロク......
もっと声張って!
はいっ!
レッスンが進むにつれ、フレーズは段々と複雑になっていきます。弦を押さえる左手、バチで弦をはじく右手、そして工工四を唄う口と、それぞれの動きは簡単なものでも、同時に行うのはなかなか至難の技。先生についていくだけで精いっぱいです。
しかし、練習を続けるうちにふと、それらの動きが自然にできるようになるタイミングが訪れました。そこからは、弾けることが楽しくて仕方ないモードに突入です。'習うより慣れよ'って、こういうことかぁ!
先生の唄三線にうっとり。あの名曲を弾いてみよう
飴と鞭を使い分ける、教え上手な新垣先生と一緒に唄いながら三線を弾くこと、約1時間半。コツコツと練習を重ねるにつれ、「コウシーアイ、アイシーコウ」だけではなく、「工四工四上尺工六七六工四合」のような長いフレーズも弾けるようになりました。われながら驚き!
三線は唄と音を合わせることが大事なわけ。唄いながら弾くと口や耳も覚えてくれるから、より早く上達するさぁね
なるほど~。頭より先に指や口、耳が覚えていくような感覚があったのはそのせいかも。ひとつ確かに言えるのは、1人だったら短時間でここまで演奏できるようには絶対になれなかったということです。
さあ、ここまでたどり着いたところで、いよいよ今日の課題曲『安里屋ユンタ』を、演奏します。この曲はもともと竹富島に伝わる古謡で、「サーユイユイ」のはやし言葉が印象的。
練習の集大成というべき課題曲を、先生の演奏をなぞって必死に唄い弾いていきます。これがまた楽しい! けれど、やっぱり曲ともなるとさすがに難しく、どうしても途中で引っかかってしまいます......。
あと少しなのに......先生、見本を見せてください!
練習だから、本気は出さないからね(笑)
優しい歌声と、飾らない三線の音色。初めて聴くはずなのに、どこか懐かしいような気持ちになるのはなぜだろう......?先生の足元にも及ばないながらも、なんとか課題曲を演奏できるようになったあたりで体験は終了! 本当に、あっという間の2時間でした。
先生、ありがとうございます!
川村さんね、上手だったさ~。本当は、指が覚えている今の状態で続けて弾いていけたら、一番いいんだけどね
そ、そんなこと言われたら......
新垣先生のお店に、通っちゃうじゃないですか......!
体験終了後、先生のご厚意に預かって、なんと「新垣三味線店」へ連れて行ってもらいました!
久米島唯一の三線店「新垣三味線店」で製作風景を見学
店というよりも工房といった雰囲気の「新垣三味線店」。実際に新垣さんが三線を製作している姿を見ることができ、つい長居してしまいそうになる空間です。
昔はもう1店舗、久米島にも三線のお店があったんだけどね。今はうちだけ。うちがもう45年くらいになるかな
えっ、何代も続いているようなお店なのかと思ってました
全然! わたしはもともとコックだったから(笑)
なんでも新垣先生は、本土復帰前までは米軍基地で料理人として働いていたという、三線職人としては異色の経歴の持ち主です。けれど、唄者だった叔父さんの影響で小さな頃から三線の音色に親しんでいたこともあり、心地よく感じられたその音への憧れがどうしても捨てきれなかったのだそう。
そうして30歳のとき、ついに三線職人としての道を歩み始めたのでした。
「三線は、棹(さお)と胴を取り付ける位置や角度が1mmでも違えば音色が変わってしまう繊細な楽器なんだ」と新垣さんは語ります。それでは同じ位置や角度のものを作り続ければいいかというとそういったわけでもなく、棹の長さや使われる木材など、さまざまな要因によって音色が変わるのだそう。じっくりと向き合って音を引き出すことが大切で、それゆえに、1本1本に個性が出て飽きないのだといいます。
新垣先生の三線は、本体と弦、バチ、三線の胴をぐるりと巻くカバーの「胴当て」、それにハードケースがセットになって、3万円。手が届かない値段ではまったくなく、けれどポンと出せるような金額でもないから、いつかの日のために、胴当ての柄だけ選ばせてもらいました。
わたしが選んだのは、いちばん右のミンサー柄。4つと5つの四角から構成される柄に「い(五)つの世(四)までも末長く」という思いが込められた、沖縄伝統の織り模様です。この胴当てをまとった三線を弾ける日がくればいいな。
三線を通して沖縄の文化に触れる
久米島、真謝集落にて
さて、日も暮れかけたところで、そろそろ新垣先生ともお別れの時間です。ご一緒したのはたった2~3時間のことでしたが、それでも、出会いがあれば別れもある......なんて、ありきたりのセリフが浮かんだりして、ちょっぴりセンチメンタルな分です。
三線演奏体験を通して、沖縄のことが知れたような気持ちになれました。これをきっかけに三線の世界にハマってしまう人は、少なくないらしいですよ。
もしかしたら「久米島旅行のちょっとした思い出に」では、済まなくなるほどの心揺さぶる何かに出会ってしまうかもしれない、そんな魅惑の三線演奏体験プログラム。あなたもおひとついかがですか?
場所:沖縄県米島町仲泊962-2
所要時間:約2時間
催行人数:10名~
料金:要問い合わせ
予約方法:久米島町観光協会(民泊事業部)へ電話(TEL:098-851-7971/受付時間:平日9~17時)またはウェブサイトから予約
URL: http://kumejima-water-tourism.com/
■新垣三味線店
住所:沖縄県久米島町字真謝126-5
TEL:098-985-8122
営業時間:8:30~19:00
休み:不定休
ライター 川村真美
協力:沖縄県・(一財)沖縄観光コンベンションビューロー
この記事を書いた人
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